上手い騎手とは何か

騎手。

競馬予想をするときに必ず気になるのがこの要素なのですが、その上手い下手というのは判断が難しいところです。

はしくれはプロの予想家ですからもちろん騎手も気にして買いますが、どのように上手い下手の見極めをしているかは述べてきませんでした。

そこで今日はこの騎手の巧拙について話しをして参りますので、競馬予想の一助となるようにお楽しみ下されば幸いです。

はしくれ

それでは早速、参りましょう

上手い騎手とは何か

圧倒的人気で勝てる

まずはしくれが最初に思うのは、上手い騎手は人気馬に乗りながら、ミスが少なく人々の期待に応えてくれる騎手だと思います。

この点はプロの予想家としても期待されながら結果を出すのは、最早宿命だと思いますから、同じ匂いを感じるところです。

そして騎手はデビューしてからすぐは、あまり良い馬には乗れませんから、その中で結果を残す走りをレースでしていくことにもなります。

となると穴馬で激走すれば評価は上がりやすくなるのですが、正直それよりも大事なことが人気馬で勝てることになるのです。

それは最初穴馬で目立っても、いずれは人気馬に乗ることになり、そこで結果を出せないと分かれば、交替させられてしまうからです。

また穴馬は本命馬の陰でレース中のマークが薄くなって、進路取りや追い出しも他の騎手の注意が外れやすい存在です。

ところが本命とされる馬にはどうしても注意が集まりますし、標的にされやすく展開でも厳しくなりやすい馬と言えます。

もちろん突き抜けた力があって騎手が乗るだけで良いという馬も、騎手のコメントからも聞かれますし、存在しているのは確かでしょう。

それでも必ず勝てるかと言えばやってみなくては分からないですし、そうそう簡単に勝てるなどとは口にできないのが競馬なのです。

そしてそういう人気馬でも勝てる騎手こそが馬主に好かれることは、賞金を多く稼ぐことからも納得できる状況と言えます。

2021年現在ではクリストフ・ルメール騎手が順位も、獲得賞金にしても最高の数字を記録している騎手です。

このルメール騎手でさえ人気馬で勝つために感じるプレッシャーには「特別なものがある」と涙した経験のあるレースもありました。天皇賞秋2020結果・優勝はアーモンドアイ

人気馬が強いのは確かですが、乗る方は気が楽ではないですし、これに打ち勝つ技術があることは上手い騎手に必須と言えるでしょう。

スローペースが上手い

そして次にお伝えしたいことは、道中で我慢が強いられやすい、スローペースで折り合って進める騎手が上手い騎手だと思います。

もちろんスローペースに限らずも、ハイペースをきちんと読み切るのは、素晴らしい技術だと思いますしそれも必要に違いありません。

しかしスローペースは我慢が要る瞬発力勝負にもなりやすく、いかに良い位置で最後末脚を残せるかが問われてくるのです。

この点は気性的な問題で前に行きたがるタイプの馬には、かなり難しい問題ですから騎手は非常に苦労をするのです。

そこでちょうど先日行われたチューリップ賞を例にとりますが、勝ち馬のメイケイエールを見ればその苦労が分かるかと思います。

動画のようにレジェンドと名高い武豊騎手でさえ苦労しつつ、なんとか抑え込んだレースですが、勝たせた武騎手は素晴らしいです。

武騎手といえば「パドック無意味」発言にははしくれも困りますが、やはり騎手の腕は超一流で、凄いなあと心底思いました。(ちなみにこのレースはパドックでもパーフェクト的中したんですがね…チューリップ賞2021結果・優勝はメイケイエール&エリザベスタワー

またスローペースはハイペースより道中で馬群が固まりやすく、好きな位置や内に入れられぬままロスが大きくなることもあります。

こういうペースが落ちついたときに無理せずすっと位置を上げられたり、逆に他馬が動いても末脚をちゃんと溜められる騎手は上手いです。

かなり人馬共に精神力が削られるようなレースになるので、スローペースで結果が出せるのは上手い騎手のひとつと言えるでしょう。

スタートが調整できる

そして次にお伝えしたいことは、先ほどのメイケイエールのように、折り合いをつけるためにスタートを敢えて調整していける騎手です。

武騎手はこのメイケイエールでは様々な上手さを発揮していて、同馬の阪神ジュベナイルフィリーズではやや遅らせて飛び出しました。

わざと遅らせて出すのはなんだか悪いことのようにも思えますが、そうではなくてスムーズな走りを実現するために合わせたのです。

このことは馬を御したことがないはしくれには分からないことですが、たったワンテンポだけ遅れて出すことは簡単なことでないでしょう。

競馬はコンマ何秒の世界で成り立っているものでもありますし、これがツーテンポ遅くなったなら、かなり差が開いてしまうものです。

たったワンテンポだけずらすように敢えて遅らせて出すことによって、壁をつくったり、ペースを見ながらレースを運びやすくするのです。

武騎手はこれをこれまで何度か大レースでもやって見せましたし、2020年宝塚記念でもキセキを2着へ導きました。宝塚記念2020結果・優勝馬はクロノジェネシス

古くは1989年桜花賞制覇のシャダイカグラで、この時は大外からスタートで内を取るために遅らせたのです。

これは実に凄い一戦ですが届きそうにないところから伸びて、無駄がたった一か所でもあったらまず勝利はないというものでした。

このように馬の気性や大外枠スタートによる不利を踏まえて、スタートを調整できる騎手は上手い騎手と言って良いところでしょう。

ファンタジック

 

そして上手い騎手と言えばやっぱり普通とは違う競馬を披露し、一体どうやって勝たせたんだと痺れるような一戦があります。(え?何このレース…はしくれ厳選凄い重賞レース5選

先のルメール騎手や武騎手にも、もちろんこういうことはありますが、何と言ってもファンタジストなのは横山典弘騎手でありましょう。

同騎手は後方でポツンとする待機策を取ることもありますが、それで最後急にまくってきたり、鮮やかに逃げ切ったりするのです。

大逃げで最後差を開いたままゴールするシーンも見られましたし、とにかくレース振りに幅があって、大胆な勝利を見せてくれます。

その中でとりわけ驚いたのが2015年天皇賞春、ゴールドシップに乗って勝利した横山騎手の手綱捌きでした。

この時はスタートも今一ならそのまま道中は最後方で、これではまず届かないだろうなと思われた展開になりました。

スローペースで縦長に流れる前を捉えにくい位置取りですし、しかも外を回るしかないために距離ロスも大きくなる競馬です。

ゴールドシップはこれまで2回の天皇賞春を走りましたが、一度も馬券内がありませんし、それも苦しい競馬になりました。

向こう正面ではムチを叩いて一気に前へ上がって行ったため、相当手応えが悪く、仕方なく押し上げたのだろうと思いました。

GⅠの大舞台でこの位置からムチを叩いての消耗戦は、長距離なら尚のこと避けたいところだったはずの手綱捌きです。

そして横山騎手は手綱をしごき、前に取り付いてからも追ったまま、手応えがやや劣勢に見えてもそのまま直線に突っ込みました。

いかにも後ろに飲み込まれるかと思われた直線になりましたが、そこから同馬は更に踏ん張るとついに先頭で駆け抜けたのです。

単純に上手く逃げ切ったなとか、ハイペースを豪快に差したとか、そういうのとは違う騎手の腕や判断が光った一戦でした。

これに応えたゴールドシップにも凄いという他にはありませんが、同馬はこれが最後の優勝で、全て出し切ったのだと思います。

人馬共に120%最高の競馬を与えてくれた、今見ても決して褪せることのない名馬と名騎手のワンシーンです。

負けても満足

先のファンタジックな騎乗による鮮やかな勝利と対照的に、馬の実力を発揮しながらも勝てないレースも存在します。

その例として相応しいレースが2020年に開催された、マイルチャンピオンシップなのですが、その2着福永騎手がそうです。

福永祐一騎手は父に天才と呼ばれた洋一氏がおり、常にリーディング上位で今や日本競馬界の顔の一人です。

そんな福永騎手がこのレースで騎乗したインディチャンプでしたが、完璧なレースを運びながらも最後は敗れ去ってしまいました。

スタートをそろっと出してからすぐ、絶好の位置で折り合いをつけて、スローペースの中でも冷静に道中を運んだ福永騎手。

斜め前方に1番人気のグランアレグリアをマークしていて、その追い出しを計りつつ進んで4コーナーも進路を取りました。

直線に向いてからは追い出してグランアレグリアの進路を塞ぎ、全く無理なく馬を走らせて最後もきちんと伸びてきたのです。

アーモンドアイに勝った馬ですし、最高の騎乗もできていたため、インディチャンプで決まりかと思われたその最後のゴール前でした。

グランアレグリアが外に持ち出し、やっと追い出せたかなと思ったら、まさかの豪脚で同馬を交わし一気にゴールに飛び込んだのです。

こんなことある?と思わせるほどのとてつもない走りを見せましたが、その強さが更に際立ったのは2着馬もまた強いからなのです。

テンよし中よし終いよし。

競馬で言われる騎手の最高の騎乗を評価する格言ですが、まさにこれを全てやり切ったうえ、敗退した一戦となりました。

これはあくまでグランアレグリアとルメール騎手が凄すぎた感じで、福永騎手とインディチャンプにも120%の競馬です。

馬券を購入したファン側から「これは仕方ない」と言葉が漏れた、素晴らしい好騎乗の一戦で記憶に残る2着となりました。

畏怖される

これは岡部幸雄騎手が現役のころよく見られた光景ですが、大ベテランが先に前に行くと、他の騎手が控えていくものです。

騎手は上下関係が厳しいとよく聞いた話ではありましたが、これは単純な忖度ではなく、ペースを読めることによるものです。

岡部騎手は非常にペースを読む力に長けていたジョッキーですし、上手い騎手はどれくらいの流れでレースが流れるかを察知します。

それがスローペースを読める騎手が上手いということに繋がりますが、実績を残してきた騎手はみな、ペースを読むのがとても上手いです。

となると大ベテランのジョッキーが逃げていくことはポジション的に、その位置が絶好位であることを暗に示していると言えるのです。

これより前に出れば速いですし、後ろ過ぎては捉まりませんから、こういう騎手の後ろではジリジリ、レースが進むことにもなるのです。

近年では武騎手が騎乗したキタサンブラックの有馬記念で、同馬が引退を飾る競馬を逃げ切った一戦でもそうでした。

このレースではスローペースになりかなり前が有利になりましたし、実績馬が単騎逃げをするなら黙っているわけにもいきません。

しかし実際は4コーナーでも楽々と回って来られましたし、前に出づらく、後ろでは届かずという競馬になった結果でした。

こういう点も読み切って予想をしていくのが醍醐味と言えますし、こういう駆け引きもあるというのを知っておいて損はないところです。

競馬予想はあくまで「知るものが強い世界」と言えるものですから、展開も見切りながらの予想をじっくりと楽しんで参りましょう。

エージェントの質が高い

ここまでは騎手の技術面につき、上手さをお伝えしてきたのですが、ここからは騎手の「世渡り」についてお話ししていきたいと思います。

騎手は厩舎に所属する騎手とフリーになる騎手に分かれていますが、フリーの騎手は依頼を受ける度、自身での管理が必要でした。

ちょうど先の岡部騎手が先駆者として知られる存在なのですが、殺到する騎乗依頼に悩まずにレースに集中するためには、騎乗依頼を仲介してくれる誰かを必要としていたのです。

そこで馬主や調教師などにも縁のある新聞記者を通して、騎乗馬の確保・管理を代行することが慣例となったのです。

これをJRAが2006年4月に正式導入して、今に至る流れを整えつつ現在も活動は続きます。

これを嫌って上手い騎手であった藤田信二騎手は騎手を引退、はしくれは非常に寂しい思いでその引退を眺めていました。

藤田騎手はとても上手でしたし、馬券でも何度もお世話になって、特にスプリンターズステークスのローレルゲレイロには感謝しています。

2着に来たビービーガルダンとは僅差の接戦になりましたから、アンカツさん(安藤勝己元騎手)との腕比べの末、勝利したのは大事な記憶です。

名騎手同士の勝負がこれから見られなくなるのではと思ったり、この頃は何かとどうなるのかがファン目線でも気になるものでした。

そして結局どれほどの結果がもたらされたのかは分かりませんが、はっきりと分かったのは仲介者が誰かで馬質が変わることです。

当然ですが有力馬ばかりを保持する馬主と親交があって、腕の良い調教師にもゆかりを持つ人は良い馬を知っています。

エージェントが依頼を受けることができる騎手の数は限られるので、そういうエージェントとの契約が騎手の結果を左右するのでした。

これは騎手側にとっても良いエージェントの確保が必須条件で、そうした「世渡り」も上手くなければ成績が出せないということです。

騎手としての腕はもちろんですが、エージェントに選ばれる状況を、自らに課していけるジョッキーも上手い騎手のひとつと言えるでしょう。

ということは

こうして上手い騎手を掘り下げるとエージェントに行き着くところですが、これを踏まえると騎手はまず馬質を大切にしていると分かります。

なぜなら勝てる馬に乗りたいから、より良いエージェントに頼るわけで、誰がエージェントになるかによって成績も変わってしまうほどです。

騎手が腕だけでどうにかなるならどんな馬に乗っても同じですし、予想する際も騎手のウェイトが非常に大きくなるはずでしょう。

しかし実際は予想するときは騎手はその一要素ではあっても、全体を現すものではなくて、補完的な要素の立場です。

その騎手たちが一番に馬質を求めているという真実こそが、この制度が確立されたことで、より明るくなったと言えるでしょう。

つまりこうして上手い騎手について掘り下げて何が分かるかと言えば、競馬は「馬」こそが本質であり、予想の起源ということなのです。

データ予想が叫ばれて久しい昨今の競馬予想界ですが、馬質を見抜ける相馬眼こそが本来予想家の持つ技でしょう。

この技を磨くことは私たち、ファンにこそできる修練ですから、はしくれの技術も体得しつつお役立て下されば幸いです。

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