競馬小説「アーサーの奇跡」第101話 抜刀

登場人物紹介

上山 匠(かみやま たくみ)

当物語の主人公。20歳。アーサーをきっかけに競馬を知る

三条 結衣(さんじょう ゆい)

匠の憧れ。年齢不詳。佐賀競馬場でアーサーと出会う

小川(おがわ)

謎の男。小倉で登場。匠の前に突然現れる

荒尾 真凛(あらお まりん)

女性騎手。22歳。アーサーの主戦を務める

滝沢 駿(たきざわ しゅん)

男性騎手。35歳。数多の名馬を知る天才

十勝 嵐太郎(とかち らんたろう)

男性騎手。40歳。テンペスターの主戦騎手

競馬小説「アーサーの奇跡」登場人物紹介

前回までのあらすじ

 

十勝と駿の熾烈な攻防に、誰もが釘付けになるゴール前。

その瞬間、匠と結衣の声が、歓声を切り裂いていくのでした―

競馬小説「アーサーの奇跡」第100話 夢か幻か

競馬小説「アーサーの奇跡」第101話

第101話 抜刀

 

―信じられない事態となりました!アーサー一気に追い込んできます!しかしゴールが見えるビッグツリー!テンペスターも追いすがっています!とはいえアーサーこれは凄い脚!異次元の脚を繰り出しています~!―

 

「ウオオオオッ…!」

実況の声も歓声も既に飽和するほど沸騰していたが、小川はポツリ

「アーサー…」

つぶやくと、声を失って立ち尽くしていた。

 

「アーサー行け~!まだまだ届くぞ~!絶対最後まで諦めるな~…!」

匠はカメラを握りしめたまま、ありったけの声を張り上げていた。

 

「頑張って~!アーサー!真凛さん~…!」

結衣も透き通る声を振り絞る。

 

小川はじっと隣で立ち尽くし、最後の攻防を見守っていた。

 

―アーサー抜刀!水を跳ねながら、中央の馬場を切り裂いてきます!エクスカリバーだ!前走で見せたもの凄い脚で追い込んできます!勢いそのまま嵐と大樹をまとめて一刀両断する気か~!―

 

「ドオオオオッ…!」

「めちゃくちゃだ~!こんな泥んこ馬場で、そんなすげえ差し、決まるわけがねえ~!」

「そうだ行け~!滝沢、前進だ~!後ろ振り向かず、引き離して行け~…!」

ビッグツリーの勝利を目前に、ファンの絶叫が降り注いでいく。

 

そんなざわめきを聞き取って駿は

「来たね…」

鞍上で鞭を握った。

 

「(やっぱりね…。この前の一戦は、手前も上手く変えられてなかった。まだリズムが全然緩かったし、騎手の言うことも聞いていなかった。荒尾さんと相性がいいんだね。もしかしたらって僕は思ったよ…)」

駿は弥生賞の一戦と、走りが変わったことを察知して、レースの途中で脚を溜めているアーサーをずっと警戒していた。

 

「(あぶないな…。もし馬場が良かったら、僕の方もやられたかもしれない。でも1ハロンの距離じゃこの馬場で、逆転可能な位置に思えない…。それでも僕は、この手を緩めない…)」

駿はすかさずペースを読み取って、逃げ切り体勢を整えていた。

 

一方真凛はアーサーの上で、ひとつの答えにたどり着いていた。

 

「(ああアーサー…。やっぱりそうだったわ。あなたは自分のことが分かるのね。どれほど脚が使えるはずだとか、どの位置で行けば最後届くとか…。それを分かって欲しかったのね。わたし…すっごく気持ちいいの。ようやくあなたのこと、分かったから…)」

真凛はステッキを引き抜いた。

 

「―いいか真凛。馬っていうのはな…それぞれ気持ちが違うものなんだ。最高のパフォーマンスをするなら、気持ちを大事に乗ってやることだ…」

栄一の声が浮かんでくる。

 

「(お父さん…。ずっと言ってくれたこと、ようやくわたしいま、分かったみたい…。何度も何度も言ってくれたこと、アーサーがいま、教えてくれたから…)」

アーサーの馬上で気がつくと、真凛はステッキを振り上げていた。

 

「(さあ行くよ、アーサー…。これが最後、このタイミングに全てを懸けるわ…)」

最後の一瞬を見極めて、真凛は強く鞭を振り下ろした。

 

―ああ~っと荒尾真凛!鞭を入れた!アーサーぐっと姿勢を沈めます!末脚爆発!凄い勢いで、水の浮く馬場を切り裂いてきます~!―

 

「ドオオオオッ…!」

ビッグツリーが抜け出した直線、栄光のゴールまで100m。

 

テンペスターの背中が近づいて、アーサーは更に加速していった。

 

「ウオオオオッ…!」

場内が沸き上がり、十勝が不意に後ろを振り返る。

 

「はああああ…!?」

十勝はそれを見ると、たまらず罵声を浴びせかけていた。

 

「ふざけんな!テメエは死んでたろう!?これ以上前に行かすわけがねえ…!」

十勝は進路を塞ぎにかかると、すかさず鞭を片手に振り上げた。

 

「野郎、やる気だ!進路取る振りして、アーサーにあれをぶつけるつもりだ!」

「やめてくれ~!あんな勢いのまま、ぶつかったら真凛ちゃん、死んじまう~!」

匠も結衣も周囲の絶叫が絶え間なく耳に伝わっていたが、ただ前を向いて

「頑張れ~…!」

とだけ、ありったけの声を張り上げていた。

 

「姉ちゃんよお…!おれだってダービーは未だに手が届かねえもんなんだ!滝沢のやつにくれたくはねえが、この距離じゃあもう、どうしようもねえ!せめて2着!少しでも賞金を多く稼ぐ邪魔、しにくるんじゃねえ!」

十勝はビッグツリーと競り合って開いた進路にぴったり詰め寄ると、追い込んでくるアーサーの進路に、重なるように斜めに切れ込んだ。

 

「さすがになあ…姉ちゃん!親父さんが、死んじまったのは可哀想だがな!出てくる以上、半端な手加減をしてやるわけには行かねえんだよお!」

十勝が鞭を一気に振り抜くと、スタンドからは絶叫が上がった。

 

「ぎゃああああ~!絶体絶命だ~!」

「やりすぎだ~!十勝、もうやめてくれ~!」

右手にその執念を握りしめ、十勝が非情の鞭を振り下ろす。

 

その瞬間、真凛は鞭を入れて、一気に間合いの中に飛び込んだ。

 

「な…!?」

真凛とアーサーが急加速して、十勝に一瞬、隙が生じると、体当たりをして鞭を撥ね飛ばし、嵐の向こうへ突き抜けて行った。

 

―ああ~っと十勝、鞭が舞っています!信じられません、アーサー突進!もうあとはビッグツリーと滝沢、皐月賞馬を残すのみとなった~!―

 

「ウオオオオオッ…!」

「真凛行け~!ゴールは目の前だ~!食らいついて行きゃ最後差せるぞ~!」

「追え滝沢~!後ろを見るんじゃねえ~!そのまま一気に振り切ってくれ~!」

絶叫と興奮が入り乱れて、スタンド中の空気を震わせる。

 

雷鳴が激しく響き渡って、2頭の頭上を照らし出していた。

 

次回予告

 

同じ想いを心に秘めながら、互いにぶつかり合う駿と真凛。

行く手を阻む大樹の存在に、真凛は決意を固めるのでした…

 

次回「もし勝ったら…」は公開未定です

前回は:競馬小説「アーサーの奇跡」第100話 夢か幻か

はじまりは:競馬小説「アーサーの奇跡」第1話 夏のひかり

*競馬も恋も感動も!学べる競馬純文学

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