名馬とは―テイエムオペラオーに捧ぐ

名馬。

 

誰しも競馬を続ける中で

特別な出会いがあるものですが

はしくれにも生涯忘れられない

心の名馬が存在します。

 

テイエムオペラオー

 

それが彼の名前です。

 

世界賞金王の座を

16年間守り続けたことや

2000年には無敗で古馬の

王道を制覇した一流馬です。

 

彼の記録はことあるごとに

記憶と共に呼び覚まされて

時間の流れが止まらないことを

その度に思わされました。

 

思わされる。

 

こんな表現をさせられる経験を

一番強烈に残してくれたのが

このテイエムオペラオーでした。

 

彼は今年2018年5月17日(木曜日)

忘れ得ぬ記憶を残したまま

天国へと旅立ちました。

 

教わること。

 

名馬の定義は人それぞれですが

はしくれの定義はこれに尽きます。

 

競馬がどんなものであるのかや

残酷な競走の現実に加え

人生を生きるのに数多くの

教えを名馬が与えてくれました。

 

そしてテイエムオペラオーがくれた

最も大切な教えこそが

自分以外の存在を愛することへの覚悟

でした。

 

 

愛という言葉は様々に

解釈されている言葉ですが

はしくれはこの言葉の意味を

こんな風に捉えています。

 

「受け止めること」

 

愛するという言葉は動的で

受け身に捉えづらいものですが

「心を受ける」と書くことからも

そんな風に捉えています。

 

オペラオーが出走するときは

いつもジンクスとの戦いで

戦前は期待よりも断然

不安が大きい馬でした。

 

 

ゆきやなぎ賞を快勝したあと

出走した毎日杯でしたが

はしくれはここで初めて彼の

存在を知ることになりました

 

今ならこれが一流馬だけが持つ

独特の感覚と分かるのですが

一目見たときはしくれの中で

何かが変わるのを予感しました。

 

その予感の通りに抜け出した彼は

後続を突き放してゴールし

追加登録料を払って

皐月賞に参戦します。

 

その頃高校生だったはしくれ。

馬券は買えませんでしたが

テレビにかじりついてその一戦を

食い入るように見守りました。

 

結果は優勝。

 

稍重馬場で大外を回り

後方からの競馬となっても

目の覚めるような末脚を繰り出し

GⅠの頂を極めました。

 

強かった、嬉しかった。

いろんな思いが込み上げてきました。

 

当時高校生だったはしくれは

何人かの競馬好きの友人に

オペラオーという凄い馬がいると

ふれ回っていたものでした。

 

競馬に詳しい友人からは

「毎日杯から勝ち馬は出ない」

と言われ

心ない友人からは

「名前がカッコ悪いから来ない」

と言われ・・・

 

悔しいやら悲しいやら

そういう気持ちが吹き飛んだ走りでした。

 

そして

歴史を作る馬には「予感」がある

と知りました。

 

 

計り知れないもの。

 

それがこの「予感」です。

 

どうしてそれを感じたのかとか

理論ではまるで分からないので

それ以降も信じてよいものか

不安を引きずり続けていました。

 

現にダービーでは3着

京都大賞典も3着

菊花賞でも2着したあとは

ステイヤーズステークスも2着でした。

 

勝てない・・・

 

あの「予感」がまるで

あの頃だけのものだったのか

勝てないオペラオーを見続けて

益々分からなくなりました。

 

そしてあの有馬記念です。

 

スペシャルウィークとグラスワンダー

年上の名馬2頭に一瞬

先着するほど勢いを見せた

非常に価値ある3着でした。

 

やっぱり強い。

 

結果は3着ではありましたが

何かが変わった気がしていました。

友人たちも「強かったね」と

讃えてくれた有馬記念でした。

 

自分のことのように嬉しい。

 

こういう感覚で応援したのは

オペラオーが初めてでした。

 

そしてそれが先にも述べた

愛する覚悟

に繋がっていきます。

 

 

年明け初戦の京都記念は

まだまだ楽しみだっただけですが

天皇賞春からその先は

心配の連続でした。

 

故障したらどうしようとか

負けてしまったらどうしようとか

そういう不安や心配ばかりが

頭をかすめるようになりました。

 

天皇賞秋などは人気馬が

負け続けていたレースでしたし

府中の2000mには魔物がいる

などと当時は囁かれていました。

 

それも2003年の4月26日に

馬場改修が終了し

1番人気馬敗退のジンクスも

今や昔になろうとしています。

 

ですがそれを見事に破って

ジャパンカップでは競り合いに負けず

「クレイジーストロング!」

と天才・デットーリ騎手に言わしめたほどの実力。

 

その強さをもっても見る側には

どんなときも不安がつきまとい

走る姿は見たいけれども

怖さが先に立っていました。

 

しかし、それでも―

 

20世紀最後に競馬の神様は

ドラマを用意してくれていました。

 

有馬記念では囲まれながら

絶体絶命のピンチでしたが

古馬中長距離完全制覇という

歴史的な偉業を見せてくれました。

 

満票で年度代表馬に選出され

海外遠征も聞かれましたが

次年度も国内専念するとは

個人的にはほっとしました。

 

血統的には欧州の地でも

期待が持てる血統でしたし

何よりスタミナの塊で

重馬場にも強い馬です。

 

スローペースに向く精神力に

どこでも結果を出す順応性。

凱旋門賞を走っていたらと

今でも思うことはあります。

 

それでも近くで見られる機会が

多く持てるのが嬉しかった。

 

最強を決める戦いかどうかはもう

はしくれには興味がありませんでした。

 

 

信じること。

 

年明け初戦の大阪杯で敗れ

天皇賞春は勝ちましたが

宝塚記念でも敗れると

京都大賞典では繰り上がりの勝利。

 

天皇賞秋では差し切られて

嫌なムードの中のJC。

そのパドックではしくれはある「予感」を

感じ取ってしまいました。

 

 

きっとあの馬に負ける。

 

それは2つ年下の

ジャングルポケット

でした。

 

まだこの頃は相馬眼がなく

予感だけが頼りだったはしくれ。

 

それでも

あの時感じたもの

同じ何かを感じ取りました。

 

そう

オペラオーと初めて出会った

あの時と同じ・・・

 

それは明るい予感ではなく

はしくれにとってつらい予感。

それでも誰かにとってはきっと

とても嬉しい予感・・・

 

複雑な思いでした。

 

こういう思いをしても結果を

見届けなくてはならない現実。

何が起こってしまうんだろうという

計り知れない恐怖心。

 

あの栄光に輝いた昨年から

何かもかもが変わってしまいました。

 

それが時が経つという中で

信じ続けることの苦しみ・・・

走る前から不安と緊張で

胸が張り裂ける思いでした。

 

 

ウィナーズサークル。

 

そこに彼はいませんでした。

 

予感したとおりその場所には

ジャングルポケットがたたずんでおり

直線で交わされるところが

何度もヴィジョンに映し出されます。

 

新しい世代

 

確かにその足音を聞くことはできました。

 

けど

彼はもう王者じゃない。

 

認めるのが本当につらかったです。

 

矛盾している感情を

押し込めるように見た有馬記念でした。

 

最強を決める戦いにはもう

興味がないと感じている。

でも

彼が王者じゃなくなったことが

とても寂しいとも感じている・・・

 

自分のエゴとの対峙でした。

 

中山競馬場へ駆けつけ

最後の走りを見守ったあと

ぽっかり空いた心の穴を

埋めようがありませんでした。

 

もう競馬はやらない・・・

 

そんな気持ちもありました。

 

 

そして、引退式。

 

仲良くメイショウドトウと一緒に

馬場入りしてくるオペラオー。

人間のエゴのことなど

何も感じられませんでした。

 

もちろんだからと言って苦しみが

ないのではないと分かっていますが

彼が与えてくれた感情に

向き合うべきだと感じました。

 

彼は嬉しさも悲しさも寂しさも

全てを平等にくれたために

人間として浅はかなはしくれは

整理が追い付いていませんでした。

 

愛することは受け止めること

 

それがどれだけ大変なことか。

名馬テイエムオペラオーが

教えてくれた気持ちです。

 

そうして気づけば彼の生涯の

終わりにこの文章を書いていて

なんとかかんとか競馬を続けて

来たことの意味を自問しています。

 

あのとき何かを感じた心に

理論はやはりつけられなくても

自分はきっと一生競馬を

続けていくべきなんだと思う。

 

どうしてもその思いを断ち切ることは

できそうにありません。

 

名馬は人の一生を変える

 

それは間違いないと思います。

そしてどうせ変わっていくならせめて

少しでも強くなりたい―

 

そう、彼のようにはなれなくても。

 

投稿者: はしくれ

現役のプロ競馬ライターです。パドックが一番得意で、JRA全場を踏破。地方・中央問わず競馬が大好きで、ブログを通じて収支改善のお手伝いをしたいと思います。

「名馬とは―テイエムオペラオーに捧ぐ」への3件のフィードバック

  1. はじめまして。
    Chelseaと申します。

    元々僕はデータ派(特に血統)でしたが、はしくれさんの影響で最近パドックの勉強をはじめました。

    実は僕もブログを書いていて予想記事などを書かせて頂いているのですが、パドックのことなんかも書いてみたいなと思っています。

    はしくれさんのおかげでパドックにハマって、より競馬を楽しむことができるようになり、とても感謝しています。

    今回のテイエムオペラオーの記事を読ませていただき、はしくれさんの競馬愛がとても伝わってきました。

    とにかく感動したのでコメントさせていただきました。

    これからも楽しいブログ続けてください。
    影ながら応援させていただきます。

    1. Chelseaさん、なんとありがたいお言葉・・・ありがとうございます(*^^*)
      よろしければChelseaさんのブログも訪問させていただければ幸いです。

      はい、はしくれはとにかくパドックばかりの人生でして
      それも意地はあっても誇れるほどの立場ではなく・・・
      和田騎手がミッキーロケットで宝塚記念を勝利した際、
      中々オペラオーに会いに行けなかったという心情にとても共感しました。

      オペラオーの訃報を聞いたときにはあっけにとられていたのですが
      時が経ち、落ち着いて記事を書いていたら涙が止まらなくなりました。

      共感してくださったのがとても嬉しかったです。
      Chelseaさんもどうぞパドックの自論をご自由に展開なさって下さい。
      そういう刺激はいつでも歓迎ですし、パドック党の方が居て下さるのが嬉しいです。

      はしくれも頑張りますので、ぜひこれからもご一緒に頑張りましょう。
      よろしくお願い申し上げます(*^^*)☆

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