「あの馬には距離が短い」
「この馬には距離が長い」
競馬予想をする際に
こんな言葉を聞いた事はありますか?
競走馬には距離適性があり
その馬に合った距離を使わなければ
持てる力を十分に発揮し
レースに勝つことができません。
この距離適性がいかに重要かは
予想家に浸透してはいますが
それを語れる予想家というのは
それほど多くはありません。
なぜなら馬体を見極めなければ
向き不向きが分かりませんし
相馬眼を持たない予想家の多くが
データに頼りがちだからです。
実際の距離適性の見極めには
馬体を見るのが早いですし
データのように過去の実績からでは
推測は困難と言えましょう。
そこで今回のコラムでははしくれの
得意とする相馬眼から
距離適性を見極めるための方法
を伝授致します。
巷にはびこる距離適性論とは
一味違った解説を
ぜひ最後までじっくりとご覧になり
修得下されば幸いです。
目次
距離適性とは?見極め方法を伝授します!
そもそも距離適性とは何か
距離適性とは読んで字の如く
「距離の適性の有無」
を指しますが
競走馬にも人と同じく
距離による得意・不得意
があるのです。
陸上選手も短距離走者と
長距離走者に分かれていますが
競馬では大体1600m以下が短距離
2400m以上が長距離に分類され
その中間は中距離
という呼ばれ方をしています。
この内対象となる馬が
得意とする距離を「距離適性」と呼び
それ以外の距離を使うときは
距離不安説
が唱えられます。
そしてこの距離不安説から
予想の精度が狂うわけですが
これは
相馬眼(そうまがん。馬を見る眼力)を養う事で
概ね解消する事ができます。
距離不安説の正体
そもそも予想時によく言われている
距離不安説の正体
ですが、殆どの場合
対象馬の血統
を元に語られています。
最近ではキタサンブラックが
長距離で活躍を続けていますが
元々はこの馬に対する
根強い距離不安説がありました。
相馬眼を鍛えてきたはしくれには
全く無意味な議論でしたが
これらの不安を煽る予想家の多くが
血統を持ち出して
やれ、菊花賞時はさんざん
「母系に問題がある」
などと言いながら
同馬があっさり勝利した後は
口を堅く閉ざしたものです。
(キタサンブラックの母父は短距離の名馬サクラバクシンオーです。)
こんな事が平気でできるのは
確たる理論を持たないからで
それというのもまず
血統が誤解されている
からだと思います。
このことは
でも述べた通りですが
血統とは元々理想の馬体を作る為の理論
です。
短距離馬をつくろうとした結果
長距離向きの馬体に生まれ出たなら
血統を持ち出したところで
全く意味がないと思います。
また理想の馬体というのは一体
どんなものなのかと申しますと
一言で言えば
距離・馬場を問わず速く走れる馬体
がそうなりますが
それでいて頑丈で病気もせず
怪我もせず人間に従順で
レースにいけば負けん気を発揮する
大人しい気性なら最高でしょう。
ではそんな馬ばかりがビッグレースを
勝っているのかと申しますと
まずこんなパーフェクトな馬は
どこにも居ないのが実情です。
ですから血統がなんであれ
生まれ育った結果合う距離があるなら
それこそがその馬にとっての
得意舞台・得意距離となるでしょう。
また競走馬の馬体の進化は
とどまるところを知りませんが
実際にサトノダイヤモンドなどは
優れた馬体を示しています。
(パドックの見方は「パドックの見方、お教えします!」をご参照下さい。)
では、このサトノダイヤモンドの
距離適性はと申しますと・・・。
はしくれの持論では
「万能長距離型」
と言えましょう。
こういうお腹がきっちり絞れて
すらっとした胴長タイプは
基本的に長距離を得意にして
活躍できるステイヤータイプです。
バランスに優れ線がやや細い
シャープな輪郭が特徴的で
日本の硬い良馬場の芝なら
スピードを存分に発揮できるでしょう。
実際はしくれは2016年
同馬が3歳時だった頃には
3冠に有馬記念と全てで
本命◎を打ちました。
当ブログ開設以降の
天皇賞・春でも本命◎を打ち
長距離を走るスタミナには全く
疑問の無いところです。
それでいて長距離馬という括りに
同馬が収まらずにいるのは
同馬のトモが張り出していて
瞬発力に富んで居るからです。
競走馬のトップスピードはこの
尻全体、トモの部分による為
この部分が発達していて
更に馬体も絞れている同馬は
スピードの要求される中距離でも
安定して走れるタイプです。
このように中距離も得意にできて
且つ長距離にも適性があるため
距離適性の幅が広い
万能長距離タイプ
と呼ぶことにしました。
それでは
サトノダイヤモンドが得意な
中・長距離とは打って変わって
短距離のレースが得意な馬の
馬体も見ていきたいと思います。
もちろん短距離にはそれに見合った
馬体というものがありますから
短距離馬の馬体の作りも
しっかり確認していきましょう。
そこで万能長距離型と呼んだ
サトノダイヤモンドと比較し易い
短距離専門で活躍しているダート馬
の紹介を致しましょう。
短距離馬と長距離馬の違い
写真のニシケンモノノフは
サトノダイヤモンドとは打って変わって
地方競馬(門別)でデビューして
2017年のJBCスプリントを制した
ダートの代表的短距離馬です。
先のサトノダイヤモンドと
比較してみると分かり易いのですが
同馬は
馬体が平面的で全体にすんぐり
としています。
なるべく分かりやすい特徴を持った
馬を比較に挙げてみましたが
短距離馬は同馬のように
お腹周りがぽてっと太めであり
長方形より正四角形に近い
胴の詰まった馬体をしています。
短距離戦で特に重要なことは
スピードとダッシュ力ですので
筋肉量が多くなり、体がずんぐりと膨れやすい
のです。
これは特段短距離馬の中でも
ダートが得意な馬に限らず
芝もダートも両方こなせる
レッドファルクスのようなGⅠ馬にも見られます。
特に日本は芝の長距離戦
ダービーを頂点とする競馬ですので
まだ何となく短距離馬でもすらっとした部分が残っていますが
香港やオーストラリアの短距離志向の強い国では
更に鎧のような筋肉をまとった
四角い馬が多く見られます。
どういう距離で活躍させたいかが
馬産に影響する以上
こういう体型の違いは常に
生まれてくるのが道理です。
(欧州の長距離馬の傾向につきましては、凱旋門賞で日本馬が勝てない理由をご参照下さい。)
このように短距離馬と長距離馬では
体型が異なりますから
これを事前に把握できれば
距離不安説に惑わされずに済みます。
ですがこれらの例とは逆に
中には
適性の幅が広すぎて判断しにくい、規格外の馬
というのも存在しまして・・・
そういう馬の実例としては
この馬を挙げておきましょう。
歴史的万能の怪物
時は昭和44年、1969年のこと。
この年競馬界を席巻した
歴史的な名馬が居ました。
その名はタケシバオー。
現代表記で4歳の同馬が
刻んだその驚くべき蹄跡は
今尚
日本競馬界の伝説
として語り草になっています。
今とは競馬が違うとはいえ
繰り返すのが歴史の常なら
予想におごらない為にも
同馬を取り上げておきましょう。
この年、同馬は年明け初戦を
2着に落として始まりましたが
その後の成績はご覧の通り
大車輪の活躍でした。
・東京新聞杯(東京ダート2100m稍重・58kg)レコード優勝。
・オープン(東京ダート1700m重・60kg)レコード優勝。
・京都記念(京都芝2400m重・62kg)優勝。
・オープン(阪神芝1600m良・60kg)レコード優勝。
・天皇賞・春(京都芝3200m良・58kg)優勝。
・ジュライステークス(中山芝1800m不良・65kg)レコード優勝。
・毎日王冠(東京ダート2100m良・62kg)優勝。
・英国フェア開催記念スプリンターズステークス(中山芝1200m良・62kg)レコード優勝。
一体どういう馬なんでしょう。
天皇賞・春を勝っていながら
スプリンターズステークスに参戦
ダートも芝も問わないばかりか
距離不問で馬場も気にせず
無茶なハンデを背負った挙句に
レコード5回のおまけつき・・・。
まさに歴史的怪物です。
因みにこの後同馬が渡った
アメリカでは最下位沈没
調子が悪かった事も重なり
引退となりましたが
国内で同馬が刻んだ27戦
(16-10-1-0)の蹄跡は
決して歴史の中に埋もれるような記録ではありません。
手元にある写真を見ますと
やや胴長でトモが大きく
はしくれの知る競走馬では
キタサンブラックに似ています。
そう言えばこの馬もスプリングステークスを
好内容で勝ち切っており
2017年の天皇賞・春では
レコード勝ちも収めていますね。
芝の1800m~3200mで
重賞を勝っていますし
馬体重も最低体重から
40kgも増加するなど
成長力と安定感には
非常に似通った面があります。
タケシバオーの産駒からは
GⅠ勝ち馬が出ませんでしたが
重賞馬は誕生していますから
キタサンブラックにも期待です。
その馬の距離適性を知るという事
以上のように
距離適性は馬体から推測できます。
同じサラブレッド同士でも
体型は違って当たり前ですし
それぞれの距離に合った馬体の
つくりが存在するのです。
ただ時にはタケシバオーや
キタサンブラックのような万能馬も居り
一概には決め付けられない
というのもまた事実です。
競馬はとても奥が深く
距離適性もまた然りです。
距離適性やその根拠を安易に
血統などに求める前に
まずはその馬の馬体や走りを
しっかりと把握していきましょう。
そうした真摯な努力の末に
的中馬券が実るのですから・・・。
*パドック競馬本の古典を目指す一冊