蔵カフェで巡らす思い―予想家の休日(3)

落ち着いた店内。

 

木目調のシックなフロアに

2階からは女性の歌声と

時折拍手が聞こえてくる

レトロモダンな府中の蔵カフェ

 

一杯のコーヒーを心ゆくまで

楽しめる木目調のテーブルに

仕事を終えたばかりの男が

ゆっくりと腰を掛けます。

 

その男の名は「はしくれ」

 

培った相馬眼を活かして

パドック予想を配信している

競馬予想家の末席を汚す

名もなき一ギャンブラーです。

 

この男が手にした外れ馬券は

府中の礎となって息づき

それを慰めるように夕闇は

粛々と静寂を迎え入れます。

 

今この男に注がれるものは

一杯のコーヒーと祝福・・・

 

そう、仕事終わりの男たちが

束の間の自由に抱かれるように。

 

 

「それにしても、もんのすごい馬体だったなあ!」

 

男は思いを巡らせます。

 

熾烈を極める競走馬たちの

淘汰の果ての重賞にあって

出遅れながら差し切った勝ち馬に

思いを凝らした言葉です。

 

「本当に良い馬だったよおお~(泣)」

 

これを見るためにここにきた。

そう言える瞬間が人の一生を

どれほど幸福にしてくれるか

男は真に感じ入っていました。

 

そもそも「休日」のタイトルから

かけ離れた仕事日だった男。

 

そんな野郎を見守るように

温もりのある喫茶店で

物腰柔らかな淑女がそっと

逸品をテーブルに添えてくれました。

 

 

マイルドエスプレッソ。

 

これが「蔵カフェ」のブレンドであり

その響きの重さよりも軽快な

飲み心地に一日張り詰めていた

疲れも緩やかに抜けていきます。

 

「たとえ疲れは抜けたとしても、髪の毛までは抜かせんよ。」

 

ガンダムの赤い人の声音で

再び妄想に戻った男。

気がつけば余裕が出てきたことなど

構わずに妄想に憑りつかれました。

 

「そういえばノヴァっていう言葉は

ラテン語で新しいっていう意味だよな。

確かにあいつはいつでも新しく

代謝の良い馬体をしているじゃないかッ・・・!」

 

頭の中の宇宙というのは

人を御しがたく支配していて

一人歩きする妄想が

記憶を絶えず上書きしていきます。

 

「妄想が一人歩きだって?

サンライズノヴァは二人歩き(引き)じゃないか」

 

どうでも良いことばかりが店内の

一角を占拠していく中

飾られたツリーの光たちが

現実の季節に輝いていました。

 

 

ごちそうさま。

 

一杯500円の代金を払い

存分に妄想を平らげた男・・・

あの黒いコーヒーの温もりに

新しい日の出を予感しました。

 

そして

ブルーダニューブのカップのように

藍色の地球の片隅にあり

一杯の宇宙を注ぎ続ける

蔵カフェさんに感謝申し上げたい。

 

ギャンブルで蔵が建たないとしても

せめて蔵で飲むコーヒー代くらいは・・・

自力で稼ぎ出したいものとは

野郎の独り言です。

 

海芝浦駅と夏の思い出―予想家の休日(2)

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