競馬小説「アーサーの奇跡」第19話 公園にて

前回までのあらすじ

 

幼馴染の奏のひと言につい口調が尖ってしまう匠。

そのことを謝ろうと公園で一人結衣を待つことにしましたが…。

競馬小説「アーサーの奇跡」第18話 ブランにて

競馬小説「アーサーの奇跡」第19話

第19話 公園にて

 

「結衣さんに、ちゃんと謝らなくちゃ…」

 

パン屋の向かいの公園に来ると、色づいた葉が秋の陽に光って、少しだけ袖を撫でていく風も冷たくなったように感じられる。

気持ちの良い秋晴れの空の下、匠は結衣が出るのを待ちながら、ブランの店内が見える入口に一番近い椅子に腰掛けた。

 

早速焼きそばパンをかじりつつ

「うん、うまい」

と一人つぶやきながら

あんぱんへと手を伸ばした瞬間、結衣がレジへと向かうのが分かった。

 

何やら奏と笑い合っており、和やかな雰囲気が感じられる。

扉から出るタイミングを待って、結衣の方にゆっくり歩み寄った。

 

「結衣さん」

 

出てすぐに声をかけられたことで、一瞬目を丸くしていた結衣も、匠と目が合うとすぐに分かって、また落ち着いた雰囲気に戻った。

 

「さっきはなんか変な言い方して…嫌な思いをさせたらすみません」

ペコリと謝った匠に向かい

「いえ…あの、ありがとうございます。匠さんお知り合いだったとかで…。おかげさまであの可愛いお店と、ちょっとお近づきになれた感じです。それにビスケット一枚おまけに入れてもらえたり嬉しかったので…」

秋の陽射しのような柔らかさで穏やかに微笑む結衣に匠は

「あ、ああ…それは本当に良かった」

照れ隠しでまた視線が泳いだ。

 

そんな匠に

「ふふっ」

と微笑み、結衣が明るい表情を見せると

「匠さん、公園で食べません?」

と公園に引き返す二人だった。

 

休日の公園は意外なほど人が少なくベンチも空いていて、匠と結衣は買ったパンを隔て、腰掛けると早速食事にした。

 

「匠さん、もう食べちゃったんですか?」

すぐ食べ終わった匠を見ながら

「焼きそばパン食べたんじゃありません?」

結衣が立て続けに質問をした。

「なぜそれを」

という匠が気づいて

「もしかして奏が言ってました?」

そう尋ねると結衣は頷きつつ

「凄く仲良しで匠さんのこと、良い人ですよって話してました。でも気をつけないと男の子だし、何されるか分かんないよですって…!」

匠の目を見つめてそう答えた。

 

「あいつ何、アホなこと言ってんだか!まったくあいつ、いつもああなんです…!」

「いつもって、匠さんいつもいつも、女の人とパンを買うんですか?」

 

結衣がきょとんとして匠を見ると

「…結衣さんまで。もう、やめてくださいよ。そんなことあるわけがないでしょうが…」

匠が肩を落としてつぶやいた。

 

「ふふっ」

と結衣が微笑むとふんわり、甘い香りが周囲に広がって、その声と香りによって辺りが輝いたように匠は感じた。

見慣れた公園の空もいつもと違ったもののように感じられて、その不思議な感覚にぼんやりと空を見つめ続ける匠だった。

 

「この公園、とっても素敵ですね」

結衣が目を細めて木々を見ている。

時折さらさらと葉擦れの音が耳に届くような風も吹いたが、心地よく、暖かい陽射しのなか、休憩を味わった二人だった。

 

次回予告

 

思いがけず二人きりの時間をゆっくり過ごすことができた匠。

そしてアーサーは2歳チャンピオンを目指し川崎へ向かうのでした。

 

次回は:競馬小説「アーサーの奇跡」第20話 全日本2歳優駿当日

前回は:競馬小説「アーサーの奇跡」第18話 ブランにて

はじまりは:競馬小説「アーサーの奇跡」第1話 夏のひかり

 

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